So-net無料ブログ作成
検索選択

「失われた時を求めるダロウェイ夫人」 [書を捨てよ、街へ出よう(読書感想)]

「20世紀最高の文学の一つと言われる偉大な小説」
この小説にはカナラズこの様な枕詞が使われる。だがそういう注釈はびびりを生むだけだ。そういう解説は単行本の裏にでもまかせたい。


年若い時期にはわからないことがある。それは30代になっても、50代から見ればまだ「ケツの青いガキ」だし、その50代だって70代からみれば若造だ。私たちが年若いモノに「若い癖に」とか「イマドキのヤツは」と言うとき、悔恨といささかの嫉妬が混じることは否めない。これは「アナタ」におくる「私」の言葉である。


「ダロウェイ夫人」は西班牙風邪にやられ、急速に老いを感じる。若いときから案外気持ちだけは変わらず、なんらかのきっかけにより、唐突におのれの年齢をしることはよくあることだ。例えばしばらく会ってなかった知人の子の成長をみたとき、例えば怪我がなかなか治りにくい事実に気づいたとき、例えばもう子供勉強を教えられないとわかった時。
「昔の自分のように」美しくなった子供、その子供を見て、過去の自分の思い出がわき上がることはないだろうか。あるいは過去に起きた印象的な出来事と同じような風景を目にしたとき、その出来事が起きた心情が「今、さっき」経験した様な現実感で表出する-まるで冷凍された肉が瞬時に解凍され、血の滴る断面を空気にさらしたかの如く。

生物学上の規定を無視するならば、私たちの身体はディオキシリボ核酸や水分やタンパク質、C、O、H、で構成されているのではなく、記憶を積み重ねることで成り立っている。私たちは「記憶」をよりどころに、薄皮を貼り合わせようにして出来ている。
アイデンティティ-自己同一性とは、「アナタ」や「私」にまとわりつく思い出なのだ。
私たちは一日の間に、どれだけ過去へさかのぼるのだろうか。マドレーヌを食わずとも、謡いのように口の端へのぼる。追憶には、どこであろうと容赦なく襲われるものだ。
ダロウェイ夫人の登場人物たちは、街角で、公園で、家の中で、花屋の店先で過去に、繰り返し囚われる。そのたびに打ちのめされ、過去を憎み、どうにもならない現実と、かつては世界を変えられると主体が「時」に勝利していた「以前の日々」を思う。

この物語は、ダロウェイ夫人がパーティを開くことを決めた朝から、パーティが終わりかける夜までの出来事である。


ダロウェイ夫人は弱った身体をもてあまし、老いを間近にしながら緩慢な死よりはむしろ肉体を支配するのは「時」ではなく、この「私」であることを明確にするため、自身の主体を確実にする行為として自死に強く惹きつけられる。常に自らの立脚地に対して自覚的であるダロウェイ夫人は、セプティマスという「先の大戦」(第一次世界大戦)で傷つき、精神を病んだ青年が自らを喪失させる-主体を別な誰かにゆだねる-ための療養所行きを拒否するために身を投げたことを知り、強烈なシンパシィを覚える。
彼女はパーティのさなか、部屋に閉じこもり、死を思う。

しかしそのとき窓の外には。

窓の向こうでは、隣家の光景が-おばあさんが一人、一日の終わり支度をし、眠りにつく様子が見えた。
ダロウェイ夫人は思う。たとえ「時」に支配され、主体をゆだねようとも、自分の意のままにならずとも、あのように平凡で心穏やかな日々が待ち受けるなら、それでもよいのではないか。ダロウェイ夫人は「時」と和解する。「人生」を受け入れる。やがてパーティに戻る。
ダロウェイ夫人は再生され、自らの生をまっとうすることが、できた。その背中は凛として、痛ましいほどの潔さに満ちている。自身の生に懐疑的であることを義務づけられた近代人としての性(サガ)を甘受しつつ、それを自覚的に全うしようとする。

私は私の人生を思う。私は私のまわりで死んでいった幾多の人生を思う。心臓を鷲掴みにされるように過去を思う、半歩先にたたずむ未来を思い、ソレを受け入れようと思う。ダロウェイ夫人を読んだ後は必ず。
そしてこうも思うのだ。“過去は常に新しく、未来はいつも懐かしい”

ダロウェイ夫人

ダロウェイ夫人


nice!(9)  コメント(17)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 9

コメント 17

hina

To 瑠璃子さま
 私が「トシだなぁ……orz」と実感したのは、一昨年パスポートを更新した時です。何せ、パスポートの有効期限は2013年3月ですから、その時私は32歳。一気に三十路を実感させられました。そして、気が付いてみれば、あと5年でその三十路です。人間、トシって取ってくもんですね(;´Д`)

 それにしてもこのプロフィール画像、はっきり言って精神的ブラクラorz
by hina (2005-01-18 00:45) 

瑠璃子

ちんこ勃たなくなるでしょ!
by 瑠璃子 (2005-01-18 00:49) 

ぽん太

ヽ(゜▽、゜)ノ・・↑・・はい・・すでに・・。
過ぎ去った日々は輝かしく、明日はまた迷う・・のみ。
by ぽん太 (2005-01-18 01:09) 

phantom

バージニアウルフですか。
図書館で借りたことがありましたが、1ページも読まずに返してしまった。
今の自分を認めたくない時、ありますよね。なかでも年をとるのは怖いかも。
バージニアウルフ自身はダロウェイ夫人のようにはいかなかったのかな。

まだ頑張れます。1イニングだけですけど。
すかさず返しておきます。
0万個!!
by phantom (2005-01-18 01:30) 

hina

To 瑠璃子さま
 おたかさんの画像を視界に入れながら勃起する事に成功しましたが、何か?(;´Д`)

 次は是非、この人で。
 http://apa.co.jp/topsvoice/topsvoice_f.html
by hina (2005-01-18 02:02) 

>>hinaさん
この女史(社長)、金沢では名物社長ですぜw

>>瑠璃子さん
「ダヴァイ!」夫人で無くて良かった。
http://www.lunar.to/~yabou/diary/hanpera/imeage12/Image4.jpg
by (2005-01-18 02:26) 

瑠璃子

バキネタキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
最高!ホーク氏ヽ(´ー`)ノマンセー
by 瑠璃子 (2005-01-18 02:28) 

rodman91

ふむふむ。この本、探してみるね!

・・・しかし唐突におたかさんって(笑)
by rodman91 (2005-01-18 07:58) 

zeal

おもわず調べてしまいました^^
http://www1.odn.ne.jp/~cci32280/pbVWolf.htm
映画化してるんですね!時間があるときに見てみたいですね!
どうもでしたm(。≧Д≦。)m
by zeal (2005-01-18 09:58) 

hina

To ホークウッドさま
 まぁ、元々アパグループ自体金沢が地盤ですからね。私もオチにはよく使いますが、元谷芙美子氏の経営能力それ自体は非常に高く評価しています。ところで、元谷さんって結局法政大学を卒業したんでしょうか?

>「ダヴァイ!」夫人で無くて良かった。
 花園勇花の方が……((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
 鬼丸真紀子とガチンコで対決したらどっちが勝つんでしょうか?
by hina (2005-01-18 12:35) 

common

考えとか、見方の波長が妙に一致することって、今年多いなと。
一番マズイのはblog更新のテンションが下がるのがみんな一致したらイカンと思いつつ、次の記事を先にみたので「いきなりかい!」と絶叫したところ、エキサイトのほうでした。
もう白髪の増える年齢じゃないですか。お願いしますよう(笑
by common (2005-01-18 14:31) 

8

めぐり合う時間たち見た?
by 8 (2005-01-19 01:40) 

瑠璃子

>ママン
社会正義思想に目覚めたのです。亀井なぞを野放しにしておくようなソネットブログの山を動かすのです。共闘しましょう!
>zeal氏
そうそう。この映画はいいよ。ヴァネッサ・レッドグレープはイイ女優。
>hina氏
どっちだろうか。勝敗が気になる。
>コモンくん
ごめんにょ。まあ眠い時間なので、目覚めにちょうどよいかと思いますた。
>女王蜂
メリル・ストリープの鷲鼻が気になってしょうがないブログはここですか?
by 瑠璃子 (2005-01-19 10:10) 

8

オレは飛行機の中で、何度見ても寝ちまった。
by 8 (2005-01-19 16:37) 

瑠璃子

基本的にメリル・ストリープがでる映画ってしゃらくさいのばっかりという印象が。アカデミーはアタシのものよ!みたいな気負いが嫌で…。うっかりするとマディソン郡の橋みたいな珍品にもでてるし。
by 瑠璃子 (2005-01-19 16:49) 

sknys

瑠璃子さん、こんばんは。
ヴァージニア・ウルフは英語の授業のテキストに使っていたので、
感慨一入です。
詩的文体、内的独白、茶目っ気、意識の流れ‥‥必死に和訳して、
こんな文章が書けたらなぁ〜と憧れていました。

その流れで図書室にあった浅葱色の著作集を読んだ。
『ダロウェイ夫人』は、ポケットの中にナイフを忍ばせている
少年のような元恋人ピーター・ウォルシュの存在が今も気になっています。

美少年が女性化(?)して360年の時空を駆ける『オーランドー』は、
今日のフェミニズム〜ジェンダーフリーにも通じる傑作ファンタジー!
サリー・ポッター女史が撮った映画『オルランド』も、お薦めです。
by sknys (2006-05-18 21:08) 

瑠璃子

>sknysさま
こんちーす。この「意識の流れ」がいいんですよね。一ヶ月に一度は読み返すんですよダロウェイ夫人。ウォルシュって愛すべきダメ人間って感じですが、それがまたいいんだな。登場人物ひとりひとりのキャラがたっていて、それが物語を大きく膨らませているんですよね。私はあの最後の箇所を読むといつも泣きます。
オルランドは未読(ということにして読みかけのママほうりっぱにしたのはナイショ)ですが、今度気合い入れてよむつもり。そういやこの間みたブロークンフラワーズにオルランドの主演女優がでてました。アノ女優さん、ホント不思議ですねー女性らしくて少年っぽくて中性的で…。
by 瑠璃子 (2006-05-18 21:42) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この記事のトラックバックURL:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。